9杯目:ワクチン起点でちょっと考えた

9杯目写真 のコピー

大規模接種会場は割と混んでいた
神奈川県秦野市/竹田聡一郎撮影
(“チェキ” instax mini 8)

 
 

竹田 いててて、ちょっと腕が張ってます。

椎名 ワクチンか。

竹田 ファイザーです。やっと打ちました。椎名さんは確か既に夏に打ってますよね。何を打ったんですか?

椎名 忘れた。でも、副反応ってやつは特になかった。あれ、微熱が出たんだっけな? いずれにしても気にするような感じではなかったかな。

竹田 中野区の施設で打ったんですか?

椎名 区民センターみたいなところ。ちゃんとシステマチックに、5-6列くらいあったかな、効率的に列を作って運営していた。

竹田 そうですね。自治体によって差はあるかもしれませんが、僕はほとんど待ちませんでした。念のために宮田珠己さんの『日本全国津々うりゃうりゃ 仕事逃亡編』(幻冬舎文庫)を持って行ったのに、開くこともなく。

椎名 そうだなあ、長時間待たされたりはしないだろうな。

竹田 ただ、終わってから待機の時間があるじゃないですか。

椎名 あったかもしれない。

竹田 パイプ椅子みたいのに座らされて、おそらく15分とか20分とか。

椎名 あったな。確かに妙な時間だった。ああいう、急にポンと空白の時間を与えられるとなぜか反省しちゃうよな。

竹田 本当ですよね。お互い、普段から反省すべき部分が大きいんでしょうね。僕は地元の神奈川県秦野市というところで打ったんですけれど、市長のメッセージがモニターで映し出されていました。あとはなんか町のプロモーションビデオみたいのが流れていて。

椎名 暇だもんな。

竹田 興味深いのは接種後に15分待機と言われ、ほとんどの人がそれを厳守していることでした。

椎名 そうだったかもしれない。

竹田 現場には看護師さんが待機してくれていますし、体調が急変しないか経過を見るための時間なんですよね、おそらくあの15分は。

椎名 きっとそうだね。

竹田 僕なんかはいらちなので、10分くらい待って問題なさそうだったので帰ろうと立ち上がったんですよ。そしたら同時くらいに違う列で接種していたおばさんが「え、もう帰っちゃうの?」と声に出してました。

椎名 そんな驚くことなのか。

竹田 割とみなさん律儀に15分を遵守していた印象です。未解明のウイルスで未知のワクチンな部分もあるので、慎重になるんでしょうね。もちろん別にそれを否定するわけではないですけれど。

椎名 日本人的らしいといえば、そうかもな。

竹田 ああ、確かに。ルールを守るのは美徳。欧米人だったら打ってそのままスタスタ帰ってしまう人、多そうだな。

椎名 ケースバイケースではあるけれど、基本的には本人の判断だからそれでいいと思うけどな。

竹田 やっぱり一連のコロナウイルスの騒動で、自己責任という言葉のありようを見つめ直さないといけない気はしています。

椎名 ワクチンでいえば、ワクチンを打つ打たないがあるだろ。

竹田 いい悪いではなくて、確かに主張の強い人は少なくないですね。

椎名 ちゃんと自分で考えるべきだよな。

竹田 そうなんですよ。その「自分で考える」には信用する人物の意見を参考にする、とかがあってもいいと思います。ただ、中には「テレビでやっていたから」とか、それくらいの理由で肯定したり否定したりする人も一定数いる。

椎名 見極めは課題になってくるよな。

竹田 情報の、ってことですよね?

椎名 そうそう。俺はインターネットは使わないから分からないけれど、あまりにも不特定多数の情報が世の中には溢れているわけだろ。

竹田 そうですね。特に今はSNSなどもあるので玉石混交で氾濫していますね。

椎名 インターネットニュースなどはソースを確認できるの?

竹田 基本的にはできます。でも、例えば新聞記事がネットに転用されて、それがまた他のニュースサイトに掲載されると、ちゃんと追う意識を持ってないと「最初はどこから出た記事か」というのは認識しにくいケースもあります。

椎名 それは問題かもな。

竹田 そうなんですよ。だからこそ今は溢れる情報や記事に対して、オリジナルのニュースソースをしっかり確認する。その媒体なり番組なりの性質や自身の評価も作っておく。自称も含めた溢れる「専門家」の過去の発言や実績などから総合的に信頼度を判断する。などなど、個人的な情報処理能力が全員に求められていると思うんですよね。

椎名 いいこと言うねえ。でもメディアがだらしない、という意見もあるぜ。特に新聞は最近、面白くもないし、とても軟派だと思う。

竹田 そうですね。メディアの質も課題ですね、信用を得る努力をしないといけない。それと同様にユーザーや読者も個々に情報の選別をしないといけないと僕は思っています。

椎名 ふむふむ。

竹田 例えば、SNSで自称医療関係者が「A社のBという薬はほとんど副作用がないからオススメ」という情報を流して、それを信じる人が服用して強い副作用が出て体調を崩した。誤った情報を流した自称医療関係者はもちろん悪いとは思うんですけれど、その人物を信じた側の責任もゼロじゃないと思うんです。

椎名 そうかもな。

竹田 媒体や個人が何か間違った情報を出したりした時に「裏切られた」って失望したり、怒ったりする気持ちは分かります。でもそれと同時に「それを見抜けなかった自分に非はないの?」と思うんです。

椎名 どの世界でも一緒だよな。

竹田 ですね。この前、友人が「すごい可愛くて気立てのいい女の子だと思って結婚したら、金遣いが荒くて嘘つきだった」とブツクサ言ってたんですけれど、「それを見抜けずに結婚したのはお前だろ」と言い切ったら、喧嘩になりました。見抜けないほうにも責任の一端はあるだろうと思ってしまうんですよね。

椎名 ちょっと違う話じゃないか?

竹田 そうかな、そうかもしれない。熱くなってすいません。

椎名 とにかく見極めが大切だって話は重要だ。

竹田 読解力もどんどん衰えているという説もありますもんね。

椎名 例えば東スポが「ネッシーまた出た」と書いてさ、それを読んで「実際にネス湖に見に行ったけどいねえじゃねえか、訴えてやる!」って怒る人はいないもんな。いたら頭おかしいと思われるだけ。

竹田 それも一種の読解力ですもんね。ただ、溢れる情報の中で取捨選択を上手にするのはもうライフハックだと僕は思っています。なんかワクチンを起点に割と真面目な話になりましたね。

椎名 たまにはいいだろ。

 

椎名誠:放浪作家、写真家、映画監督、飲んだくれ。そろそろ新宿「池林房」で生ビールが飲めるだろうか。

竹田聡一郎:怪しい雑魚釣り隊副隊長、フリーライター。広島カープが弱くて悲しい。SSOK監督、お疲れ様でした。

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