7杯目:八丈島慕情

7杯目

第二東ケト丸
東京都中野区/椎名誠撮影
(“チェキ” instax mini 90 ネオクラシック)

 
 

竹田 なんすか、これ。

椎名 船だよ。

竹田 それはわかるんですが、ご自宅のインテリアです?

椎名 東ケト丸なんだ。

竹田 おお、これが伝説の。分からない人も多いですかね。椎名さんが結成した「怪しい探検隊」の前身にあたる「東日本何でもケトばす会」、略称「東ケト会」。そのメンバーが中心となって共同出資した船「東ケト丸」ですね。

椎名 説明ありがとう。八丈島で進水式をやったんだぜ。

竹田 学生の頃、『あやしい探検隊 海で笑う』(角川文庫)だったかな、読みました。藍ヶ江(あいがえ)の港からですっけ、みんな海に投げ落とされるくだりが好きで、「なんてアホな大人たちなんだろう」と思ったものです。

椎名 ははは、ありがとう。

竹田 褒めてないです。そもそも、共同出資って具体的にはどなたがいくら出したんですか?

椎名 東海林さだおさん、木村(晋介)、(太田)トクヤと俺。ひとり100万円ずつ。

竹田 そりゃ豪気な。

椎名 バブルの頃だった記憶があるな。モトをとるため、かどうかは知らないけれど、向こう20年間は月に一度、島の名産が送られくるという話だったんだ。

竹田 今で言うクラウドファンディングみたいだ。

椎名 最初は伊勢海老とか尾長鯛とか送ってもらった。豪華だったな。

竹田 最初は?

椎名 一年だけ。木村やトクヤはともかく、東海林さんには悪いことしたと思っているんだ。

竹田 結局、台風で流されちゃったんですっけ。

椎名 そうそう。島でいちばん速い船だったのになあ、残念です。

竹田 あ、この模型、ちゃんと「第二東ケト丸」って書いてある。後継船なんすね。

椎名 そうなんだよ、なかなか芸が細かい。

竹田 誰が作ってくれたんですか?

椎名 トクヤの知り合いらしいんだ。

竹田 そうなんですね。ちょっと電話してみましょう。

(太田トクヤさんに電話)

竹田 トクヤさんもうろ覚えでした。「もう何十年も前でしょう。椎名さんの読者かなあ。わからないなあ」とのこと。

椎名 それはそうだよな。でも、俺はけっこう気に入ってるんだ、これ。

竹田 八丈島つながりで言うと、昨年末に集英社から出た『遺言未満、』の夕陽をバックにしたカバー写真は八丈島での撮影ですよね。雑魚釣り隊の内海裕之カメラマンが撮ってます。

椎名 彼はうまいしセンスがあるよ。(現場で撮影が)早いから、撮られてても楽なんだよ。

竹田 東京新聞に載ったインタビューで使ったアザーカットも、とても良かったです。その昨秋の撮影、僕たちも同行したじゃないすか。

椎名 トクヤとな。なんでだっけ?

竹田 ちょうど緊急事態宣言下でもなかったですしGotoトラベルが効いていたので。集英社の担当さんに「野次馬で行ってもいいですか?」と言ったら「ぜひ!」ということで。現地で運転したり若干、お手伝いはしましたが。

椎名 暇だったの?

竹田 いやいや、シーナ愛ですよ。

椎名 何言ってんだ。たくさん島酒を飲んだろ。

竹田 まあ、それが主目的みたいなところがありましたからね。クサヤと島寿司で島焼酎を浴びるほど飲みました。島のレモンで割る飲み方も良かったなあ。

椎名 よくそんなに覚えてるなあ。

竹田 椎名さんだってすげえ飲んでましたよ。超老舗の坂下酒造「ジョナリー」をカパカパと。あれ、芋の甘味とクセがすごくて、美味しかったなあ。ちょっと薄く黄色がかったやつです。

椎名 ラムみたいなやつかな。少し覚えてるよ。

竹田 その時も椎名さんはそう言ってた気がします。いい宴でした。

椎名 カズと鈴美さんに久しぶりに会えたしな。

竹田 八丈島の伝説の漁師・カズさんこと、山下和秀さんとその奥様ですね。シーナファンにとっては、映画『うみ・そら・さんごのいいつたえ』の出演者としても知られております。

椎名 朴訥でいい男だよ。

竹田 そう、いかにも漁師といった感じでガタイが良くて、眼が鋭い。これまで僕は浮き球三角ベースとかでお世話になったりとかしてきたんですけれど、あそこまでしっかり一緒に飲んだこととかはなかったんですね。

椎名 何が言いたいんだよ。

竹田 だから、ちょっと緊張していたんですよ。漁師さんは気が荒いでしょうし、数々の武勇伝も聞いたりしてるし。

椎名 別に無法者じゃないんだから大丈夫だよ。

竹田 この前、ご一緒させていただき、優しい人だなあと思った矢先、椎名さんが。

椎名 なんだよ。

竹田 おもむろに「カズと鈴美さんの馴れ初めを聞かせてくれよ」と話をもってったんですよ。

椎名 ちゃんと聞いたことなかったからな。

竹田 話自体はすげえ面白かったですからね。黄色いスカイラインを島で乗り回し、初めてふたりで喫茶店に行った時の話が傑作で……。

椎名 どうした?

竹田 いや、これ、カズさんと鈴美さん読みますかね。

椎名 どうだろうな。でも別にいいんじゃないのか。

竹田 怒られる気がしてきた。

椎名 そしたら次に会った時、謝ればいいだろ。どうせそのまま宴会になるし。

竹田 それもそうですね。そういうところがあのご夫婦のいちばん素敵なところでもありますね。

椎名 落ち着いたらまた行きたいよな、八丈島。

竹田 本当ですね。春くらいに雑魚釣り隊でシマアジのキャンプを張りましょうか。

椎名 いいな。

竹田 もちろんカズさんと鈴美さんにも来ていただき、ふたりのラブロマンスの続きをじっくりと……。

椎名 怒られるぞ。

 

椎名誠:放浪作家、写真家、映画監督、飲んだくれ。そろそろ新宿「池林房」で生ビールが飲めるだろうか。

竹田聡一郎:怪しい雑魚釣り隊副隊長、フリーライター。広島カープが弱くて悲しい。SSOK監督、お疲れ様でした。

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