5杯目:貸したら返せよ文庫解説
漂流文庫とオバケ文庫
東京都渋谷区/竹田聡一郎撮影
(“チェキ” instax mini 8)
竹田 新潮社から文庫になった『「十五少年漂流記」への旅』を読みました。
椎名 そうか、ありがとう。
竹田 オリジナルで僕はたぶん買ってました。でも久々に読んで楽しかったです。特にこのコロナ禍で旅がらみの本は楽しいけど、つらい。
椎名 解説を葉が書いてくれたんだよ。
竹田 ようさん。この旅する文学館にいらっしゃった人はみなさんご存知でしょうが、一応、説明すると娘さんすね。ニューヨーク在住の弁護士。
椎名 お前も向こうで会ったんだろ。
竹田 そうっす。ちょっと行く用事があったので連絡してみたら「ビール飲みましょう」と言ってくれて嬉しかったな。セントラルパークのボートハウスで飲んだIPAだったかな、うまかったっす。で、解説なんですけど、とても面白かったです。
椎名 前に葉と『十五少年漂流記』(ジュール・ヴェルヌ/新潮モダン・クラシックス)を共同で訳したんだよ。その縁で編集者が指名してくれたのかな。
竹田 それは粋ですな。内容も他の方には書けないものでした。椎名さんが『三年寝太郎』の大男を演じたとか、知りませんでした。しかし、シーナとヴェルヌってすごい比較っすね。
椎名 こういうのって自分では気付かないことも多いから、新鮮だったよ。
竹田 そもそもなんですけど、この文庫解説って椎名さんが指名するんですか?
椎名 ケースバイケース。その書籍に登場する人とか、取材でお世話になった人とかはお願いしやすい。でもSFとかエッセイは編集者に任せることも多い。
竹田 6月には集英社からエッセイ『旅先のオバケ』が文庫化しています。この解説は、本の雑誌の助っ人→東ケト会のドレイ→ホネ・フィルムプロデューサー→『暮しの手帖』編集長→エッセイスト、という沢田康彦さん。
椎名 面白い人生だよな。ブリかサワダかっていうくらいの出世だ。あいつも書けるから頼みやすい。
竹田 葉さんは作家としてのシーナ、父としてのシーナを紹介していますが、澤田さんのほうには仕事のパートナーとしてのシーナ、兄貴分としてのシーナの記述があります。それぞれ興味深いですね。僕も時々、解説を書かせていただきますが、澤田さんの原稿はとても参考になります。
椎名 お前もちゃんと書いてくれるから助かるよ。また頼むな。
竹田 いつも椎名さんは「好きに書けよ」って言うので、「シーナは実は何も考えていない」とか「ビールばっかり飲んでいるホップ酵母じじい」とか、本当に好きに書いてます。あとで怒られるかなと思うんですけれど、怒ったりしないですよね。
椎名 こっちが頼んでるのに怒るわけないだろ。
竹田 ゲラの段階で著者校、つまり椎名さんからの赤字が入るかなと思いきや、それも入ったことないです。
椎名 照れ臭い部分もあるし、入れるところも特にないからな。
竹田 読んでねえ説。
椎名 それはあるかもしれない。
竹田 僕なりに緊張して書いてるんですけどね。文庫解説って最後に来るじゃないですか。文庫自体は面白かったのに、最後にやたらと自分を主張する解説などがくると、ぶち壊しになる。それが何より怖いです。
椎名 俺はあんまり経験ないけど、他の人の本では時々、あるかもな。ズレてるとか偉そうとか。
竹田 自分の文庫解説にズレてたりとか、失礼なことを書かれて怒ったってことはないです?
椎名 ほとんどないな。ああいうのって書いてくれるだけでありがたいんだ。どっかで貸し借りみたいな部分がある。
竹田 詳しく聞かせてください。
椎名 専門的な本なら専門家に任せればいいけれど、例えば週刊誌連載の雑多なエッセイとかは、読まないと書けないだろ。
竹田 そうですね。当たり前です。
椎名 だから忙しい同業者にゲラを読ませて(原稿用紙)8枚とか10枚を書いてもらうっていうのは少し気を遣うんだ。
竹田 椎名さんでもそんな感情があるんですね。
椎名 俺は気遣いの人で有名ですよ。
竹田 それは分かりませんが、とにかく作家さんとかにはお願いしづらいんですね。でも、東海林さだおさんとかはよく書いてくれていますよね。
椎名 そこがまさに貸し借りなんだ。東海林さんの文庫は俺も解説を書いてるから。それに東海林さんとはプライベートでも仲良くさせてもらっていたから、解説だけではなく一緒に仕事したり飲んだ時なんかのエピソードも入れやすい。
竹田 なるほど。よくわかりました。実は集英社から椎名さんのエッセイの文庫解説を依頼されまして。
椎名 おう、頼むな。好きに書けよ。
竹田 分かりました。メチャクチャに書いてやりまっせ。発売されたらここでまた報告します。
椎名誠:旅作家。最近、肝臓がらみの数字がいいのでご機嫌。あまり知られていないが楽天イーグルスファン。
竹田聡一郎:怪しい雑魚釣り隊副隊長。本業はフリーライター。サッポロの「SORACHI」が売っていると絶対に買ってしまう。