4杯目:北海道ではとうきびと呼びます

在りし日の生ビール

在りし日の生ビール
東京都千代田区/竹田聡一郎撮影
(“チェキ” instax mini 8)

 
 

椎名 どっか行ってたんだって?

竹田 まあ、ちょっと北のほうへ。

椎名 カッコつけんな。北海道、涼しかったろ。

竹田 それはもう本当に快適で。エアコンを入れずに眠るという行為は最高の贅沢です。

椎名 いいなあ、俺は基本的に眠れないからな。生ビールもうまかったろ。

竹田 いや、それが飲んでないです。サッポロクラシックは缶や瓶で飲みましたが、札幌はまん延防止等重点措置があり、生ビールはなかなか。仕方ないですけどね。

椎名 え、そうなのか。北海道で生ビール飲めないって何すればいいんだ。

竹田 御意。

椎名 店が営業してないってこと?

竹田 観光客が集まりそうなビール会社直営のビアホールなどは軒並み休業中でした。ジンギスカンや寿司など、店によっては20時まで開いてるんですが、そのほとんどが酒飲めないんですよ。生ビールなしのジンギスカンなんて僕にとってはむしろ苦痛に近い。

椎名 それで何してたの?

竹田 仕事がすげえ捗りました。いいことですけど、捗らなくていいから生ビールが飲みたかった。

椎名 ホテルの部屋で缶ビールを飲んでたの?

竹田 北海道はデパ地下も肴が充実しているしそれはそれで楽しかったですが、狭いシングルルームで飲み食いしているとなんか悲しくなるんですよね。だから河原のベンチとかに持っていって月を見上げて。

椎名 いろいろ努力してるんだ。

竹田 それでもだいぶ気晴らしになりました。東京よりはだいぶマシです。せめていいスコッチでも飲もうと思って適当に入った酒屋に竹鶴があって買えたのも収穫でしたね。

椎名 お、いいな。飲もうぜ。出せよ。

竹田 カツアゲじゃないすか。ひとり一本しか買えないし全部、向こうで飲んじゃいました。

椎名 なんだよ、久しぶりに飲みたかったな。

竹田 余市のニッカ蒸留所も今は休業中みたいですね。

椎名 そうだろうな。懐かしいな、余市。

竹田 手放しちゃったんですよね、別荘。

椎名 うん、愛着あるから難しい判断だったけど、ひとつの区切りだな。

竹田 そもそもなんで余市に別荘を持ったんですか?

椎名 まあなりゆきだねえ。まとまって原稿を書く時間と場所が欲しかった。

竹田 缶詰用にするには立派な別荘でしたね。僕の友人が社員旅行で札幌や小樽にに行ったんですって。

椎名 ふんふん。

竹田 現地でバスを仕立てて、札幌の時計台やテレビ塔、小樽運河やそれこそ余市のニッカウヰスキーに寄ったりして。

椎名 定番だな。俺はパッケージツアーは大嫌いだけど、社員旅行には憧れる。

竹田 で、余市で現地のバスガイドさんが「あの丘の上に見える建物は作家・椎名誠さんの別荘なんです」と紹介したそうです。

椎名 ええ、そうなのか!?

竹田 もちろん少し前の話ではありますけれど、個人情報だなんだと叫ばれる昨今ではちょっと考えられないですよね。

椎名 別に隠してたわけじゃないけどな。

竹田 去年、久しぶりに余市に取材に行ったでしょう。

椎名 うん、高速道路があそこまで延伸しているのには驚いた。

竹田 あれは地元の人にとってはいいことなんですかね? 観光客が来るようになるからいいのか。

椎名 どうだろうな。歓迎してたらいいんだけどな。

竹田 でも、昔は小樽経由で下道、国道5号線でえっちらおっちら行ったわけでしょう。

椎名 そうだったな。途中、海が見えるんだ。

竹田 そうそう。塩谷の海水浴場くらいで。で、その道沿いに「ゆできび」とか「とうきび」というのぼりが出ていて。

椎名 とうもろこしか。

竹田 あれうまいっす。学生の時に、当時の彼女と北海道を旅した時、北海道では「とうきび」っていうのかと知りました。300円くらいだったかな。1本買って、半分に折ってうまいうまいと食べてたら、店のばあちゃんが生のとうきびを「お土産にしなさい」って2本くれて。

椎名 優しいおばあだ。

竹田 だから、この前、高速を通った時に「便利だな」とも思ったけど「おばあ、元気にとうきび売ってるかな」と少し心配になりました。

椎名 そういうおばあはだいたいたくましいから大丈夫だ。

竹田 そうすね、また行きましょう。この前は新岡鮮魚さんにマグロをご馳走になりましたが、チカ(北日本の海にいるワカサギのような魚)食えなかったのが心残りです。

椎名 あれはうまいぜ。冬が旬なのかな。あんまり考えないで、大きいのは刺身、小さいのは丸ごと唐揚げにしちゃえばいいんだ。お前にぴったりだよ。

竹田 ちょっとひっかかるところあるけれど、いいっすね。早く制限なしで旅ができる世の中になることを願います。

椎名 竹鶴も買っておけよ。

竹田 酒への執着心!

 

椎名誠:旅作家。最近、肝臓がらみの数字がいいのでご機嫌。あまり知られていないが楽天イーグルスファン。

竹田聡一郎:怪しい雑魚釣り隊副隊長。本業はフリーライター。サッポロの「SORACHI」が売っていると絶対に買ってしまう。

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