2杯目:南米の風がふわりと吹いたらえらいことになった
椎名が搬送され入院した東京女子医大病院
東京都新宿区/竹田聡一郎撮影
(“チェキ” instax mini 8)
竹田前回からの続きになるんですけれど、夕刊フジの連載「街談巷語」を読みました。救急車で搬送されたんですね。
椎名そうなんだけれど、そのあたりは記憶が曖昧なんだよ。
竹田みたいっすね。その「必死の生還シリーズ」を3回目まで読みましたが、入院初日の記憶が抜けている部分もある一方で、場面によっては描写が鮮明で、なんだか怖くてリアルでした。これ、何回くらい続くんですか?
椎名まさに今も書いているけど、7-8回くらいかな。
竹田おお、楽しみにしてます。他の媒体にも書くんですか?
椎名いま集英社でインターネットの連載をしているんだ。そこでは書く予定。
竹田失踪願望。ですね。日記のやつ。あっちは初回で「カニカマうめえ」という割とお気楽なことが書かれていて、最後に「コロナ明けっていつだ」で結ばれていますね。で、次回で罹るわけですから、落差がすごい。
椎名俺もまさか自分がかかると思ってはなかったからな。
竹田陽性になってしまった人の多くはそう思っているのかもしれませんね。街談巷語を読むかぎり、ペルーのお酒「ピスコ」を飲んでいて最初は二日酔いだと思ったってことですか?
椎名俺も酒が弱くなったんだなあと悲しかった。
竹田そんなうまいんですか、ピスコ?
椎名うまいんだよ。南米の風がふわりと吹くようなうまさだ。
竹田それっぽいことをおっしゃってるんですけど、味が伝わってきません。うさんくさいソムリエみたいっすよ。
椎名うるせえ、飲めよ。分かるから。ブドウの蒸留酒なんだけど、俺が好きなのは透明なのにクセが独特なやつ。ブランドの名前は忘れた。その好きなのが久しぶりに手に入って、嬉しくてさ。飲むとパタゴニアを思い出したな。パタゴニアに向かう道中、ずっと飲んでたんだ。
竹田地酒は旅の記憶に紐づきますしね、確かにそういう酒はうまい。でもね椎名さん、おれ、調べたんです。ピスコってライムジュースとシロップ、卵白を加えて、アンゴスチュラ・ビターズってのがよくわからないけれど、仕上げにその液体を数滴たらして「ピスコサワー」にして飲む。あるいはピスコをジンジャエールで割ってレモン果汁とまたアンゴスチュラ・ビターズってのを加えた「チルカノ」で飲む。これが一般的みたいですよ。
椎名たぶんそれも飲んだことあるな。まあまあ、うまかったよ。でも、特にペルーの南のほうでは漁師も農家もみんな生(き)のまま飲んでて、やっぱりそっちがうまかったんだ。
竹田郷に入れば、ですね。でも、なんか文句ばっかりつけているようですが、椎名さんの場合、シロップやら卵白やらを用意してカクテルにする手間が嫌なだけという側面もあるでしょう。
椎名うん、それは否定できない。
竹田キャンプの焚き火酒でも、最初はハイボール飲んでても、最終的にロックになってるもんなあ。飲み方、気をつけてください。
椎名医者にも言われたよ。
竹田ともかくこの前、デパ地下で見つけたので近々飲んでみて、感想を報告します。
椎名おう、うまいぞ。
竹田その闘病記であったり、顛末は前述の媒体で読めるのでしょうが、後遺症とかそういったものは大丈夫なんですか?
椎名しばらく身体がだるい感じはしたけれど、それもだいぶ良くなってきた。目立ったものは今のところないな。
竹田お大事にしてください。でもこれだけ暑いとマスクすると熱中症で危ないし、しないとウイルスが怖い。適宜やっていくしかないっすね。
椎名嫌な世の中になっちまったな。
竹田どっか行きたくても、難しいですもんね。椎名さんは書斎型の作家じゃないから、ファンとしては現在地不明で漂流していてほしいですけれど、今は「ここに行ってきた」ってだけでいろいろ言われる。
椎名そうだよな。でも結局、何をしても何もしなくても、誰かしら文句つけてくるんだったら気にしないのがいちばんだ。
竹田確かに。しかもSNSの普及で匿名で誰でもモノを言えるようになった。匿名の意見はあってもいいとは思うんですけれど、議論には発展しづらいですよね。フェアじゃないから成立しない。
椎名おれSNSとかよく分からないけれど、何が楽しいの?
竹田一般的にはよく承認欲求で片付けられたりします。あとは、世界中の同好の士と繋がることができる、情報発信と収集ツール、知人だけに絞って近況報告、安否確認に使う人もいますね。
椎名でもよう、そんなの電話したり飲み行ったりすればいいじゃないか。
竹田どちらかといえば僕もそう思います。でも「そこまでの関係ではない。でもちょっと気になる知人友人」みたいな、希薄といってしまえば希薄、あるいは気軽な人間関係も今は生まれてきているのかもしれません。なんか真面目な話になってしまいましたね。
椎名そうだな。次回はもっとくだらないこと話そう。最近、アサヒビールの金色のやつが出たんだ。あれうまいから飲もうぜ。
竹田「ザ・ゴールド」ですね。用意しておきます。
椎名誠:喜寿を超えたバカ旅作家。酷暑をOS-1と冷えたビールで乗り切りたい。
竹田聡一郎:本業はフリーライターだが、怪しい雑魚釣り隊でドレイから副隊長まで成り上がったビール仲間のひとり。この夏は大量購入した小豆島の素麺「島の光」でしのぐつもり。