b0576

出版社:文藝春秋

発行年月日:2021年02月25日

椎名誠 自著を語る

純文学誌に何年かおきにSFの連載を続けていて、思えば40年近くなる。連載をまとめて生まれたSF単行本は、長編、短編あわせて20冊以上になるだろう。その一方で、やはり純文学誌に、SFとは真逆の私小説(『岳物語』など)を連作的に書き続けて、単行本になったのが30冊近く。この『階層樹海』は最初に大きな構想があった。植物の知能と行動力の未来について、いつか真剣に取り組もうと思ったのだ。チャールズ・ダーウィンのビーグル号航海記に触発されてアマゾンを船で旅したとき、とてつもない食物連鎖や、食うか食われるかの戦いを目の当たりにして、大いに意気を高めた。巨大な木のかたまりによって惑星が動物ではなく植物によって浸食されていく、という仮定が通用するような気がしたのだ。難しい連載はとびとびになり、出来上がるまでの4年近くかかったが、久しぶりに満足するSFを書けたと思った。

旅する文学館 ホームへ