『世界の家族 家族の世界』

目黒次は『世界の家族 家族の世界』です。もともとは、天理教道友社「すきっと」16号(2010年12月)から32号(2018年12月)まで連載したものを、2019年1月に新日本出版社から刊行と。ちょっと待ってね。8年間で16回ということは、この雑誌は年2回刊なんだ。正確には17回だけど。

椎名1回の分量はそんなに多くないし、しかも年2回の連載だし、まさかこんなに立派な本になるとは思ってもいなかった。

目黒これはいい本だね。カバーの見返しに椎名の写真本のリストが付いているのがまずいいし、デザインが素晴らしい。写真もカラーだし、モノクロもクリアでいい。

椎名写真は光と影だからな。

目黒なによりもいいのは、その回にとりあげる地域を、見出しの横の世界地図に小さな○印をつけてわかりやすくしている。たとえば、キルギスタンとかトンレサップ湖はどこにあるのか、オレみたいなやつにはわからないよね。ところがこの本は、見出しの横の世界地図を見れば一目瞭然。痒いところに手が届くって感じだね。どうってことないようなアイディアに見えるけれど、こういう細部が意外に効いている。新日本出版社からは最近椎名の本がたくさん出ているけど、特に造本が素晴らしいということはなかった。ひどいわけではないけど、特筆することもないって感じ。だけど、これは群を抜いていい。

椎名外部のデザイン事務所がやったんじゃなかったかなあ。

目黒ええと、装丁・本文デザインは宮川和夫事務所とあるね。この事務所の仕事が丁寧なんだ。

椎名おれは何もしていないから。

目黒今後も、写文集を発行するときはこの事務所と組んでやったらいいんじゃないかなあ。素晴らしいよ。あとはあまりないんだけど、細かなことを幾つか聞いていきます。まず、キルギスタンにはその後行ったの?

椎名行けなかったなあ。

目黒「行きたい国はいくつかあって、その中の一つに中央アジアのキルギスタンがある」とこの本で椎名が書いている。そのくだりがいいんで、すこし引用します。


 キルギスはユーラシア大陸でいちばん美しい風景だといわている。草原があり森林があり美しい湖が広がっている。そこに住んでいる人々はモンゴルやブリアートと北からの中央アジア人が入り交ざったような顔をしており、写真を撮るのも大事な仕事にしているぼくはそこでポートレイトを撮るのが夢だった。


 ソ連邦時代はなかなか行きにくかったが、冷戦が終結して韓国側からわりあい素早く入国できるようになったので、旅程を組むとその直前にロシアが侵攻して、外国人はまたもや簡単には入れなくなったと。そういういわくのある国なんで、その後行く機会があったのかと気になったわけ。

椎名一度チャンスを失うと難しいね。いまはもう体力がないから行けないしな。

目黒キルギスに行けなくなったので、そのときはアイスランドにいくわけだけど、そこに、アイスランドは四国と九州をあわせた国土で人口は32万。その後はブータンに抜かれたものの、一時は世界でいちばん幸せな国であったと。消費税は25%だが、幼稚園から大学まで無料、病院も無料──ということを椎名が書いている。

椎名それがどうかしたか?

目黒同じことが、この本の後ろのほうにもう一度出てくる。

椎名半年に一度の連載だから、前に何を書いたかなんて忘れちゃうんだよ。

目黒いや、雑誌に書くときはまだいいよ。でも単行本するときはチェックしてカットするべきだよ。10数行なんだからその部分を削ってもページは変わらないんだし。違う本でもやめたほうがいいと思うけど、同じ本はまずいよ。

椎名わかりました。

目黒それとね、この65ページの写真。

椎名どれ?

目黒綺麗な髪飾りをつけた女の子の写真。

椎名それがどうかしたのか?

目黒のちに別の本に出てくるんだよ。まったく同じ写真が。これ、印象深い写真だから記憶に残ってるからね。

椎名お前ねえ。同じように見えても違う写真の場合があるんだぜ。

目黒それではその写真が同じなのか、別の写真なのかはそのときに検証します。

椎名絶対に違う写真と思うなあ。

(この対談は2020年1月27日に行われました)

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