『北の空と雲と』

目黒それでは『北の空と雲』です。月刊誌PHPの2015年1月号〜2016年12月号に連載され、その後加筆修正して、2017年12月にPHP研究所から刊行と。これはテーマがはっきりしているからいいよね。

椎名テーマ?

目黒「この取材シリーズのテーマは、ひどい災害に見舞われて三年目となった東北各地を訪ね、元気な風景、元気な笑顔を探して歩こうというもの」と、最初に書いてある。すごく真っ当なテーマだよね。

椎名PHPだから、真面目なんだよ。

目黒椎名の旅ルポって、行き当たりばったりのことが多いから、こういう明確な目的を持ったものは珍しい。それに、きちんと、というのはおかしいけど、ちゃんと毎月実際に旅に行っている(笑)。わりと最近の旅ものは、昔いろいろなところに行ったことの思い出を書くことが多いから(笑)。

椎名そうだな。

目黒例によってこまかなことを聞いていきますが、冒頭に山寺というところに行く話が出てきて、サラリーマン時代に山形の山寺に行った話が出てくるんだけど、サラリーマン時代と言ったらデパートニュース社にいた頃だよね、経済関係の業界紙がどうして山寺に行ったの?

椎名これはよく覚えている。山形に行くのが目的で、当時の上司と二人で仙台から仙山線に乗ったんだけど、途中の山寺駅で降りたのさ。温泉に泊まっていこうと。ところがその上司が前の日、深酒してもう酒を飲みたくないってんで、椎名もビールを飲むなって言うんだ。

目黒温泉に入って、ビールなし?

椎名普通なら、おれは飲まないけど、お前は飲んでいいって言うだろ。でも、自分は飲みたくないからお前もやめろって。人間の器が小さいよな(笑)。

目黒それに従ったの?

椎名一応上司だしな。

目黒40年たっているのに、まだ覚えているんだ(笑)。

椎名飲みたかったなあ。

目黒山形にはデパートの取材で行ったわけか。そうか、まだ新幹線がない時代か。

椎名仙台と山形を結ぶから仙山線と言うのさ。

目黒あとね、巻末に書き下ろしが1本と、対談が1本入っているのはなぜ?

椎名ページが足りないって言われた。

目黒その2本を除くと、168ページか。たしかに少し足りないか。でも、この巻末の対談はいらないよね。書き下ろし1本が入って、もうページは足りているし、そのあとに18ページの対談をいれる必然性がない。内容があるわけでもないし。

椎名まあまあ。

目黒あとね、塩釜に行くくだりで「昭和ピザ190円」というのが気になって飲み屋ののれんをくぐる話が出てくる。著者が気になったんだから、読者も気になるわけだよ。でもその後、この話にはまったく触れずにこの回が終わるの。すっごく小さいから安かったとか、何かあるでしょう。

椎名その店に入ったら、面白いおやじたちがいて、忘れちゃったんだよ。

目黒書いているなあ。基本は愚痴の言い合いで、時々喧嘩しているみたいに見えるけれど、すぐに笑い合うので安心したって。

目黒で、「昭和ピザ190円」の真相はいまだにわからないままなんだ。この店には他にも気になることがあって、「ばばあの漬物二五〇円」とか「ぜいたく納豆二一〇円」とか、「人生相談七五〇円」とか。最後の「人生相談」は洒落なんだろうけど。

椎名いや、冗談じゃないみたいだよ。近くの店のママさんたちや親父たちが愚痴やら泣き言を言いに来るんだって。それの聞き料ということらしい。

目黒ふーん。

椎名旅そのものは面白かったなあ。

目黒椎名がPHPと仕事をするのは珍しいな、これが初めてかなと思ったんだけど、巻末の広告を見ると、PHP文芸文庫に椎名の本が3冊入っている。

椎名そうかあ。

目黒『ここだけの話』『ナマコもいつか月を見る』『北への旅』。最初の2冊は、本の雑誌から出た本だよ。PHP文芸文庫に入っていたとは知らなかった。

椎名『北への旅』は単行本もPHPだよ。

目黒それとね、前にも言ったと思うんだけど、食べ物の写真はモノクロだとなんだかよくわからないね。ラーメンくらいはわかるけど、それが何なのかもよくわからない。食べ物はカラーのほうがいい。

椎名まあ、そうだけど、予算の関係で仕方がない。

目黒それくらいかな。

(この対談は11月25日に行われました)

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