『水の上で火が踊る』

目黒次は「超常小説ベストセレクション」ですが、『月の夜のわらい猫』と『水の上で火が踊る』の2冊ですが、2冊一度にやりましょう。ようするにこれまで椎名が書いてきた超常小説のアンソロジーだね。札幌の柏艪社から2012年5月に、2冊同時に刊行と。まず収録作品の一覧を書いておきます。

 
 『月の夜のわらい猫』
 「雨がやんだら」    SFアドベンチャー1983年5月号
 「蚊」         小説新潮1983年11月号
 「生還」        SFアドベンチャー1983年1月号
 「管水母」       小説新潮1996年1月号
 「混沌商売」      小説TRIPPER1996年冬季号
 「水域」        小説現代1988年1月号
 「胃袋を買いに。」   別冊文藝春秋186号1989年1月
 「考える巨人」     オール読物1998年12月号
 「問題食堂」      SFマガジン2010年2月号
 
 『水の上で火が踊る』
 「いそしぎ」      SFアドベンチャー1981年10月号
 「ぐじ」        小説新潮2000年6月号
 「みるなの木」     海燕1993年4月号
 「突進」        別冊文藝春秋1996年216号
 「猫舐祭」       小説すばる1990年11月号
 「ねじのかいてん」   小説新潮1989年1月号
 「三角洲」       別冊文藝春秋1999年224号
 「青野浩の優雅でもなければ退屈でもなきありふれた午後」
             小説現代2009年8月号

という9編と8編、合わせて17編が選ばれている。それぞれ最後の1編が単行本未収録作品というおまけつき。この17編の選択は誰がしたの?

椎名おれが選んだ。

目黒なるほど。やっぱりそうか。いや、いい短編ばかり選んでいるからね。編集者が選んだのなら、なかなかやるなと思ったんだけど。

椎名自分の好きな短編を並べたんだ。

目黒全17編に、著者の自作解説が付いているのもいいね。なるほど作者はこういうことを意図して書いたのかとわかるから。

椎名面倒だけど、書きたい気持ちもある(笑)。

目黒その自作解説の中に、「青野浩の優雅でもなければ退屈でもなきありふれた午後」の項に次のような文章がある。

舞台は今世紀の中頃のトーキョーをイメージしています。その頃の超能率化した会社に勤める平凡な会社員が退社してから帰宅後までの夜を追っていった話です。これは長編をイメージした小説の第一章の感覚もありました。しかし実際にスタートした長編はもっとドロドロして複雑化した、東京湾全体を舞台にした話になり、今四苦八苦しながら(二〇一二年)連載の途中です。このありふれた、でもとても刺激にみちた未来のフツー社会をそのまま連載小説の舞台にしておいたほうがらくだったかなあ、といましきりに悔やんでいます。

と椎名は書いているんですが、このとき連載していた長編はその後、どうなったの?完結したの?

椎名いや、途中で挫折しちゃった。

目黒未完のまま?

椎名そうなんだよ。

目黒この版元からは以前も傑作選を出しているよね。あのときは初出一覧を載せていなかったのでここで批判しましたが、今回は巻末にきちんと初出一覧が載っている。

椎名これ、どこかで文庫にしてくれないかなあ。

目黒それ、すごくいいよ。椎名の超常小説のベスト17だからね。文庫になって手軽に読めるようになればいいね。

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