『帰ってきちゃった発作的座談会』

目黒ええと、『帰ってきちゃった発作的座談会』です。2009年10月に本の雑誌社から本になって、2013年8月に角川文庫と。

椎名これが最後の発作的座談会か。

目黒そうだね。これは冒頭に、本書成立の事情を私が書いている。ようするに、本の雑誌に載ったまま単行本になっていないやつが一冊分あったんだけど、読み返してみるとつまらないものも結構あったんで、そういうものを落としていくと残ったのが10本。これでは1冊分にならないので、じゃあ、どうしようかと。それで二つの道を考えた。玉石混淆とはいえ、初収録なんだからそれなりに意味はあるはずだと全部まとめて単行本にする道。もう一つは、面白い10本を軸に、あとはこれまでに刊行した発作的座談会の中から今でも再読に耐えるものを5〜6本選んで足す道。つまり、「初収録ばかりだが、玉石混淆の15〜16本をまとめる」案と、「初収録プラス傑作選/面白いものばかり」の案。で、結局後者を選んで本にしたわけです。初収録9本と、これまでの単行本から選んだ9本。さらに文春文庫の創刊20周年記念小冊子に出張した出前篇の全部で19本です。あれ、おかしいな?

椎名どうかしたか。

目黒平成21年10月に本の雑誌社から出た、ってなっているんだけど、おれはもう本の雑誌をそのころはやめているんだ。それなのに、冒頭のエッセイで書いているように収録する座談会の選択と順番を決めたのは間違いなくオレなんだよ。なんで、やめてるのにオレがやったのかな。ちょっと待って、浜本に聞いてみる。
(目黒、浜本に電話)
わかった。浜本に頼まれておれが選んだんだって。

椎名どっちだっていいよ。それよりも、文春文庫の記念小冊子でこの座談会をやったことなんてあるのか?

目黒どこかの天ぷらやでやったよ。これは本の雑誌にも載ってないから、このときが文字通りの初収録。

椎名「朝、目が覚めたら一人だった!?」は面白かった記憶がある。

目黒おれも当時いちばん面白いと自信があったんで冒頭に置いたんだけど、ただね。久々にまた再読すると、内容を克明に覚えているから、思ったほど面白くない。

椎名そうか。

目黒それよりもむしろ、後半においたやつ。「コタツとストーブ、どっちがエライか」みたいなやつが面白いんだ。これはいちばん最初の『発作的座談会』に収録したやつで、散々読んできたはずなんだけど、細かなところを忘れてたんだね。


 木村「小学生の頃、雪が降ってくると雪を固めてストーブの上にのっけなかった?」
 椎名「ジューッていうのな」
 沢野「よくやったなあ。あれはストーブじゃなければできない。コタツの負けーっ」
 木村「お前、コタツ派だろ」

とかね。くだらないの。初収録では「欲しいけど買えないもの」がケッサク。寿司屋ではカウンターに坐らずボックス席に坐って「上寿司ふたつ」と注文する、と沢野が発言すると、木村さんが「お前、女の子を連れて寿司屋に行ってカウンターに坐らないのか」と驚くくだりが面白い。沢野は回転寿司屋に行ってもまわっているものには手を出さず、「マグロ!」と親父に言うんだって。そうすると親父が「こいつ、出来るな」って目で見るって言うんだよ(笑)。じかに注文するなら普通の寿司屋に行けばいいだろと椎名が言うと、「だって普通の寿司屋は高いもん」と沢野。ホント、あいつはすごいよね。

椎名ところで、どうして「欲しいけど買えないもの」というテーマなのに,そういう寿司屋の話が出てくるんだ?

目黒それを言っちゃいけない(笑)。

椎名とにかくこの奇想天外な発想のキーマンは沢野だよな。あればかりは計算して出てくる発言じゃないし。

目黒そうだよ。毎月一のつく日は「沢野の日」だ、という回で、この日は乗り物を全部ただにしたいと沢野が言いだすんだ。そうすると、今日は沢野の日だから乗り物がただなのねってみんなが喜ぶと。この次の発言がホントに沢野らしい。


 沢野「そうすれば、運転手も休めるしね」
 木村「休めないよ」

椎名運転手が休んだら、誰が乗り物を動かすんだ(笑)。

目黒「なくなったら困るものは何か」という回があって、これは初収録の分だけど、四人ともに途中から自分のいらないものを次々に列記していくの。おれは東上線に乗らないから東上線はいらないとかね。そうして最後のオチが椎名の発言で、「わかった。おれは沢野がいらない」。これは覚えているけど、途中で椎名が言ったんだよ。でもこれはオチにつかえるなと。つまり発言の順序はこうして変えてるんだ。でもそれだけで、あとは脚色していないし、作ってもいない。

椎名沢野の発言だって、ウケを狙ってないからいいんだよ。

目黒あいつは存在そのものが奇想天外だから。でも、こうしてみると、なかなかレベルが高いよこの本は。冒頭の一篇も、あと数年もすれば中身を忘れるだろうから、また面白くなるかもしれないし。

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