『めしもり山のまねっこ木』

目黒次は『めしもり山のまねっこ木』です。絵本ですね。絵が及川賢治さんで、文が椎名誠と。2009年1月に国書刊行会から本になっています。この絵本で覚えていることある?

椎名ないなあ。

目黒どうして国書刊行会から出たの? 椎名の本がここから出るの、初めてだよね。

椎名そうだな。これはある雑誌の編集者がおれのファンで、それで国書刊行会の知り合いに話を通してくれた。

目黒国書刊行会から直接話がきたわけじゃなくて、間を取り持ってくれた人がいたんだ。

椎名そうそう。及川賢治さんも人気のある人で、彼に話を通してくれたのもその人のおかげだね。

目黒なるほどね。しかし、この絵本、特に話がないんだよなあ。どうしようか。

椎名めしもりやまって実在するんだよ。

目黒あっ、あとがきに書いているよ、それ。そうだ、ここにそのあとがきを引用しておこう。

子供たちが小さかったときに、休みになるとよくあちこちにつれていきました。
あるとき長野県の「飯盛山」にいったのです。「めしもりやま」。その名のとおり、ちゃわんにごはんを山盛りにしたようなかたちをしていて、みんなでそのてっぺんにすわってオムスビを食べました。
そのとき、
「ごはん山のてっぺんでごはんをたべておもしろいな」
と六歳になる娘がいいました。よく晴れて気持ちのいい一日でした。帰りごろに風がふいてきて、山の木がみんなわらわらゆれていました。
そのとき家族四人で、うたをうたいながら山道をおりました。
「やーまーの子は、やまの子は、みーんなつーよいよー」
といううたです。三歳になる弟が「やまのこ」といえず、「やまのと」といっていました。
おりていく山の道のむこうに、わらわらゆれている大きな木が、風によってかたちを変えるのがおもしろくて、
「何に見える?」
「もじもじかいじゅう」
「おだんごパン」
 などとみんなでいいあいました。このおはなしはそのときたのしかった記憶がもとになっています。

椎名ホントにおむすびみたいな山なんだよ。楽しい旅だったなあ。

目黒そのときの話をふくらませたんだ。ええと、椎名の絵本はこれで四冊目かな。『なつのしっぽ』『ドス・アギラス号の冒険』『めだかさんたろう』に続く四作目。2冊が沢野で、1冊がたむらしげると。

椎名絵本ってむずかしいんだよ。長新太は天才だと思うんだけど、たとえば『ごろごろにゃーん』は、猫がごろごろにゃーんするだけの話なんだぜ。特に、ストーリーはないんだ。でも子供には圧倒的に人気がある。五味太郎の『がいこつさん』もそうだよね。がいこつがただ町を歩きまわる話だから、大人が見たら、なんなのこれ、と思うだろ? ところがこれも超ロングセラーだよ。

目黒たしかに子供が喜びそうだよね。

椎名とてもオレには発想できない。

目黒でも、これからも書いていくの?

椎名機会があればやりたいな。

目黒ええと、これ以上はもうないか。

椎名あっ、思い出した。

目黒なに?

椎名岳ってつけたのは、おれと一枝さんが山を好きだったんで、山岳の岳にしたんだけど、岳本人は山が嫌いなんだって。

目黒えっ?

椎名あいつ、サーファーだから、山よりも海のほうが断然好きなんだって。

目黒それは小さいころに本人が言ったんじゃなくて、大人になってから言ったということね。

椎名そうそう。親というのは勝手だなという話だよ(笑)。

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