『らくだの話 そのほか』

目黒次は『らくだの話』です。これは本の雑誌に書いた「今月のお話」をまとめたもので、2007年6月に本の雑誌から単行本に。これについては「自著を語る」でこう書いている。

「本の雑誌」に連載している「今月のお話」という非常に自由な、しかし連載の母体である本を意識的に取り上げるという、同じエッセイ集でも新宿赤マントシリーズとはちょっと一線を画した路線がこれだ。しかし、読者にとってはそれらのことはあまり明確には伝わらないだろうから、その辺をどんなふうにとらまえて読んでもらっているか、著者としては不安なところだ。それにしても我ながらよくもまあ、息をつかずにこんなにいろんな話を乱れ打ちするものだとあきれる思いがする。

ということなんですが、単行本になるときはそれぞれタイトルがつくんで、それが「今月のお話」をまとめたものとは分かりづらい。『むははは日記』とかね。これをひとつのシリーズとして考えれば、もしかすると椎名の著作の中では最長のシリーズかもしれないね。

椎名そうだな。

目黒この本の中におれとの対談が2本入っている。

椎名へーっ。

目黒海外に旅立つまでに原稿が書けないとき、目黒対談やろうぜとよくやったけど、これもそうだね。この本は2005年6月号から2007年5月号までの「今月のお話」をまとめたものだから、もうおれは発行人をやめていたんで、本の雑誌の製作にはまったく関わっていない。でもまだ笹塚にいたときだから、対談をやってくれと浜本に頼まれたんだろうね。

椎名そうか。

目黒「旅行前突発対談」というほうはどうということもないんだけど、「老人と読書」という対談は面白いよ。全然忘れてたから、何度も噴き出しちゃった。くだらねえんだ。

椎名じゃあ、あとで読んでみよう。

目黒短いから読んでみて。ええと、何から聞いていこうかな。ウィスキーの話からいこうか。

椎名なに?

目黒ボウモアの十二年ものでも十分にうまいという話が出てくるんだ。で、グレンドロナックの十五年ものを飲むと「芳醇」という漢字が躊躇なく浮かんでくる、と書いている。すごいよね、「芳醇」という漢字が躊躇なく浮かんでくるっていうんだから、大絶賛だよ。これ、高いの?

椎名いや、4000円くらいか。

目黒両方とも?

椎名両方って?

目黒だから、ボウモアの十二年ものと、グレンドロナックの十五年もの。

椎名ボウモアは3000円くらいかなあ。

目黒安いんだ。1万とか2万するんだと思っていた。

椎名そんなにしない。

目黒スコッチだよね。

椎名シングルモルトだな。

目黒ごめん、どう違うの?

椎名普通のスコッチは、あちこちの醸造所のウィスキーを混ぜるんだよ。ようするに、ブレンドだな。でも、シングルモルトは同じスコッチではあるんだけど、一つの醸造所のウィスキーで出来ている。

目黒ふーん。おいしいの?

椎名好き好きだな。というのは個性が強すぎるから、合わない人もいるよ。ボウモアはクレゾールみたいだと言う人もいるくらいだから。

目黒なるほど。

椎名一つの醸造所の一つの樽から出来るシングルカスクというのもある。

目黒へーっ。奥が深いなあ。ええと、あとは本の雑誌の締め切りは年に十五〜十六回あるんじゃないかって書いているんだけど(笑)、逆に締め切りが待ち遠しいって原稿もあるの?

椎名あるよ。

目黒なに?

椎名アサヒカメラ。もう二十五年も連載をやっているけど、いまでも楽しいもの。早く締め切りがこないかなあって思ってる。

目黒すごいねそれ。いまでもどきどきしながら締め切りを待っているんだ。

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