『南シナ海ドラゴン編 にっぽん・海風魚旅5』

目黒ええと、『南シナ海ドラゴン編 にっぽん・海風魚旅5』です。日本の海辺を旅するシリーズの最終巻です。例によって週刊現代に連載されて、2005年10月に講談社から本になって、2009年1月に講談社文庫と。

椎名ベトナムに行くんだよな。

目黒そう。最終巻なんで最後はベトナムまでいく。そのベトナム編はいつもの5倍の分量で描かれている。ええと、巌流島にいっているんだけど、これ、珍しいよね。ほとんどこの海辺紀行は名所にいかないのに。

椎名巌流島?

目黒行ってるだろ?

椎名ああ、思い出した。それ、麻雀しに行ったんだ。船ですぐなんだ。

目黒えっ、どういうこと?

椎名なにか塔みたいなのがあって、そこにちょうど四人座れるんだ。

目黒麻雀するためだけに巌流島に渡ったの?

椎名そのころは麻雀ばかりしてたからな。思い出した、カメラマンのヒロシはいつもすぐ裸になるんだ。で、腹を出してポコンポコンと叩いていたら、本当に狸が出てきたんだ(笑)。

目黒あっ、その狸の写真はこの本に載っている。「巌流島に行くと野性のタヌキがたくさんいた。普段は無人島だが、工事中の今、作業員のお弁当のおこぼれを狙ってこうして集まってくる」という写真キャッチがついている。じゃあ、巌流島は名所だから行ったわけじゃないと。

椎名そうだね。

目黒でもね、巌流島を訪ねるこのエッセイには四人で行ったとは書いてないし、麻雀をしたとも書いてないぜ。

椎名そうか。

目黒そうだよ。そういう事情は全然書かれていない。あとはおれが知らなかっただけかもしれないんだけど、新潟の出雲崎で石油が出たんだね。明治三十年から昭和六十年まで掘削用の鉄塔が使われていたと。その鉄塔の写真が載っている。

椎名小さな油田だよな。

目黒それと、他の本にもすでに出ているんですが、酒田のワンタンメンを食べる話がこの本にも出てくる。

椎名おいしいよなあ、あれは。

目黒酒田がワンタンメンのおいしい町だと最初は知らずに「満月」という店に入ったんだね。そのうまさに驚くと「川柳」という店を教えられ、そこにいくとまたまたうまい。ということは、最初は偶然だったんだね。

椎名そうそう。でもな、「川柳」は一代かぎりなんだよ。薄い皮を作るのは結構大変で、息子さんは継がないって言っているらしいんだ。だから、おやじが引退したらその時点で「川柳」はおしまい。

目黒じゃあ、そうなったら、おいしいワンタンメンはもう食べられない?

椎名まだ「満月」があるけどな。

目黒「ワンタンメン好きのぼくはしばらく酒田に住み着きたくなってしまった」と書いているんだから、相当惚れ込んでるよね。

椎名酒田は日本でいちばんワンタンメンがおいしいエリアだからね。

目黒そこまで言われると食べたくなるなあ。東京とかでは食べられないの?

椎名現地にいかないとな。

目黒ええと、ベトナム編はあまり言うことないんだよなあ。サイコロ六つを使うチンチロリンを見た話が出てくるんだけど、六つも使うのはチンチロリンじゃないんじゃないかなあ。サイコロを使う博打は多いから、チンチロリン以外の種目だと思う。

椎名そうかもしれないな。

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