『机の中の渦巻星雲』

目黒ええと、『机の中の渦巻星雲』と『屋根の上の三角テント』なんですが、それぞれ、「超常小説ベスト・セレクション」「日常小説ベスト・セレクション」として、1997年4月に同時発売になったものです。ようするに、この時点における椎名作品の傑作アンソロジーですね。まず、『机の中の渦巻星雲』からいきましょうか。これは「超常小説ベスト・セレクション」で、収録作品は、「いそしぎ」「ジョン万作の逃亡」「雨がやんだら」「蚊」「水域」「胃袋を買いに」「アルヒ-」「武装島田倉庫」「猫舐祭」「スキヤキ」「みるなの木」「ねずみ」「妻」「○○商売」の14篇。これ、誰が選んだの?

椎名お前だろ?

目黒えっ、おれなの?

椎名そうだと思うなあ。

目黒そう言われてみると、収録作品に異存はないね(笑)。たとえば、巻末に「著者による収録作品解説」があって、そこで『ジョン万作の逃亡』について、椎名はこう語っている。

批評家たちの間では賛否両論なのだが、ぼくは好きな作品である。何かの雑誌で「椎名誠の傑作・駄作」が選ばれた時に、駄作の代表に選ばれていた。そういう、賛否両論を問われた作品の方があとに残るのかもしれない。

これを読んで、えーっと思ったよ。傑作じゃんあれ。

椎名賛否両論だったよ。

目黒本当かよ。おれが覚えているのは、このインタビューで、あれは筒井康隆の「ブルドッグ」でしょと言ったら、いや違う、それは読んでないと椎名が言い張って、じゃあそういうことにしておきましょうって結論づけたら、そういうことにしておくじゃなくて、そうなんだよと念を押されたこと(笑)。あと、『雨がやんだら』に入っている「いそしぎ」も、筒井の「佇むひと」でしょと言ったら、あ、あれはインスパイアされたことを認めたんだっけ? 違うわ、「悶絶のエビフライライス」だ。筒井の「走る取的」を下敷きにした作品だとおれは思うんだけど、それを椎名は認めなかった(笑)。ええと、何の話だっけ? そうそう、この『机の中の渦巻星雲』の収録作品は傑作ばかりという話だ。

椎名あとは何が入ってるの?

目黒だから、「いそしぎ」だろ「雨がやんだら」「蚊」「アルヒ」と、傑作ばかりですよ。「スキヤキ」もいいし、「妻」もまあまあの作品だし。この「妻」は『鉄塔のひとその他の短編』に収録されている作品で、このインタビューのテキストになったときに、椎名が「全然覚えてないなあ」と言うんで、ストーリーを全部紹介したことがある(笑)。

椎名ああ、見知らぬ女性が家にいるんだ。

目黒いろいろあったあとで主人公が「あんたは誰なんだ」と尋ねるわけ。

椎名誰なんだろう(笑)。

目黒そのときに説明したんだけど(笑)。いや、オレがヘンだなって思ったのは、この『机の中の渦巻星雲』が著者の自選なら、その内容を忘れた作品を自分で選ぶだろうかと思ったからなんだ。それはヘンだよね。

椎名この『机の中の渦巻星雲』は間違いなく自選じゃないな(笑)。

目黒あとね、この本が素晴らしいのは、巻末に「椎名誠 超常小説系短編リスト」が載っていて、作品名、雑誌名と月号、収録単行本名が付いている。つまり、椎名がどんな短編をどこの雑誌に書いて、さらにその作品がどの本に入っているのか、すべてわかるんだ。これは素晴らしいよ。

椎名編集者が作ったんだな。

目黒もう1冊の『屋根の上の三角テント』には、「椎名誠 日常小説系短編リスト」が付いているから、この2冊が手元にあれば、1996年までに書いた椎名の短編がすべてわかる。椎名の短編で、超常小説と私小説以外の作品があれば、この二つのリストからこぼれるんだけど、そんな短編ある?

椎名さあ(笑)。

目黒違うよ椎名。この本の帯をよく見て。

椎名なんだよ。

目黒帯にこう書いてあるよ。

とにかくこれだけは読んでほしい!
著者が自ら選び解説を加えた
超常小説系短編アンソロジー

オレじゃないよ。椎名が自分で選んでいるよ。

椎名そうかあ。

目黒この本は1997年4月に出ているから、そのときは「妻」の内容も覚えていたんだけど、このインタビューでその作品を取り上げるまで15年以上あるんだし、その間に忘れてしまったということじゃないの?

椎名ふーん。

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