『ねむたいライオン』

目黒ええと、次はちょっと説明がいるんですが、写真集の『ねむたいライオン』です。説明というのは、1992年12月に、朝日新聞社から『ねむたいライオン』と『草の国の少年たち』が同時発売しています。この3年前にやはり同じ版元から『風の国へ』と『駱駝狩り』という2冊の写真集が出たときは、のちに『風の国へ・駱駝狩り』という書名の文庫になっているので、ここでは1冊の本として扱ったんですね。でも、今回の『ねむたいライオン』と『草の国の少年たち』は、のちに文庫になったのは『草の国の少年たち』だけで、『ねむたいライオン』は文庫になっていない。だから今回は別の本として扱います。同じ版元から2冊同時発売という形態も同じであるのに、ここでの扱い方が異なるのはそのためです。

椎名『ねむたいライオン』は文庫になってないのか?

目黒そうだね。というわけで、『ねむたいライオン』からいきます。これは、アフリカのキリマンジェロに行ったときの写真だね。

椎名旅の副産物だな。

目黒おれが気にいったのは、雲がわきあがってくる中で男たちが頭に袋を載せて運んでいる写真。遠景なんだけど、20人くらいの男たちが黙々と歩いていて、雲がごんごん湧きあがっている。これは椎名たちのポーターなの?

椎名ほかにもイギリス隊とかいたから、そっちのポーターだな。

目黒ちょうどいい機会なので聞いておくんだけど、こういう1回の旅で何枚くらいの写真を撮るものなの?

椎名それは期間によって違うけど、1日に360枚くらいだから、10日だったらその10倍だし、1カ月の旅なら30倍。

目黒すごく撮るんだ。でもね、いまならデジタルカメラで撮ればその場で確認できるけど、昔は現像するまで本当に写っているかどうかわからないよね。

椎名まあ、撮れてると信じるしかないよな。

目黒そういう失敗はない?

椎名いちど焦ってフィルムを入れたときに、スプロケットにフィルムがきちんと入っていなくて失敗したことがある。

目黒なに、そのスプロケットって。

椎名そこにフィルムの端を突っ込んで、巻き取るためのもの。だからきちんとフィルムを刺してないと空まわりして写ってないことになる。

目黒いまは椎名もデジタルカメラで撮ってるの?

椎名そうだよ。

目黒じゃあ、昔みたいに1日360枚を撮らなくてすむんだ。だって確実に写っているとその場で確認できるからね。

椎名総数は減ったな。

目黒でもいままでに撮ったやつがあるから、管理が大変だよね。それはどうしてるの?

椎名全部保管してるよ。

目黒どのくらいの量になるの?

椎名紙焼きだけど、この棚がいっぱいになる。それ以外にネガもあるし。

目黒デジカメになると、その保管する量も違ってくる?

椎名全然違うよ。

目黒ひとつ聞きたいのは、自分の撮った写真のアングルは覚えてるものなの?

椎名覚えているよ。

目黒やっぱり。

椎名なに?

目黒ずいぶん昔のことだけど、写真家からクレームがきたとある雑誌の編集者から聞いたことがあるんだ。その雑誌に載せたイラストが自分の写真そっくりであると。これは写真をトレースしたに違いないとクレームがきたわけ。で、編集者があわててイラストレイターに確認したら、すみませんと。

椎名トレースしたことを認めたわけだ。

目黒その話を聞いて、写真家ってすごいなあと思ったのをいまでも覚えている。その写真が南極に行かなくちゃ撮れないといった特殊な写真ならわかるけど、そうじゃない。誰にでも撮れるような写真なの。だからアングルというか、微妙な構図の記憶が写真家にあったということだよね。

椎名ありうるね。

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