出版社:集英社

発行年月日:2013年01月10日

椎名誠 自著を語る

帯に「累計300万部突破の大人気シリーズ!」と書かれている。編集部がつけたものだが、書いている本人も300万部などという数は想像もできず、まあ正直なはなしありがたいことであります。ずいぶんいろんなジャンルの本をおびただしい数書いてきたが、小説は私小説とSFを含めた自称「超常小説」(この世界の通常社会とは全く別な空間次元もの)の二つのジャンルを中心に書いてきた。私小説という、事実を踏まえてできるだけ登場人物も本名で書いていくものが好きな一方、逆に全く空想や想像力だけで書いていく超常小説は、一人の人間の頭がどれだけ架空の世界、ウソの話が書けるかという両極端の位置にあり、それをぼくは楽しんでいるような気がする。
 で、この『三匹のかいじゅう』である。読者の中にはこれは絵本かなにかのタイトルかと思った人がいるらしいが、読んでいただければわかる通り、かいじゅうとはアメリカに住んでいた我が息子夫婦の間に生まれた子供たちのことであり、つまりはぼくの孫だ。アメリカでは二人生まれ、ファミリーは17年ぶりに日本に帰ってきて最後の一人が生まれ、マゴは三人になった。一度はアメリカに戻る計画もあったが、福島の大災害も影響して彼らは日本に定住することになり、おまけにぼくの家の近くに住むようになった。したがって互いにしょっちゅう行き来するようになる。
 三人のマゴたちはたいてい揃って我が家にやってくる。というよりも襲ってくる。玄関を開けると、わーという歓声をあげながら階段をがんがん昇ってくる。ぼくの家は地下から屋根裏部屋まで5層になった階段が続いているので、彼らにとってはそういう上下の移動というか暴れ回りがこの上なく面白いようで、彼らがやってくる休日などは完全に一日がドタバタのものすごくうるさい戦いの場所になる。まあぼくとしては仕事さえ片付いていればやつらは格好の動き回る遊び道具みたいなものだから、その連中のやることなすことを書いていけば自然とお話になってしまう。この本はそういうことだらけで一冊になっている。
 この本が出た最初の頃は一番上の長男しか読まなかったが、今は一番下の子まで読んでいるようで、ところどころに書いてある彼らにとっては不本意なことなどにも気がつき、けっこう真顔で反論されたりしているのが現在である。

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三匹のかいじゅう

出版社:集英社

発行年月日:2016/1/25

文庫

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