『海を見にいく』

目黒それでは次は『海を見にいく』です。1986年に本の雑誌社から出て、2010年に新潮文庫に入っている。すごいね、24年後の文庫化ってのは。

椎名本の雑誌から出た本か?

目黒そう。ただね、最初におやっと思ったのは、文庫版のあとがきに、こういう写真と文章を組み合わせるスタイルの本を一度やってみたかったと。その後、この手の本は週刊現代に連載して講談社から出た「にっぽん海風魚旅」シリーズとか、晶文社の『風の道 雲の旅』『笑う風 ねむい雲』とか、たくさん作っているが、その最初の本がこの『海を見にいく』であると、椎名はそう書いているんだ。でも、この前年に『シベリア夢幻』(文庫化のときに『零下59度の旅』と改題)を出しているよね。あの本は、写真と文章を組み合わせた本ではないという認識なの?

椎名えっ、『シベリア夢幻』のほうが先?

目黒うん。『海を見にいく』が1986年12月で、『シベリア夢幻』が1985年12月。ちょうど1年前だね。

椎名じゃあ、おれの勘違いだ。

目黒『海を見にいく』新潮文庫版のあとがきは間違いであるとここで訂正しておきましょう。それから驚いたのは、この『海を見にいく』はいろいろな海の写真に文章をつけたもので、すでに発表された文章には末尾に初出が付いている。たとえば『あやしい探検隊不思議島に行く』所収「モルジブ」より抜粋、とかね。で、その初出表記のないものは書き下ろしであるということなんだけど、その書き下ろしが多いんだよ。本の雑誌から出した本だから間違いなく何度も読んでるはずなんだけど、いま初めて気がついた。こんなに書き下ろしが多かったんだって。いや、忘れてただけかもしれないけど。1986年といえばデビューして7年後、椎名が忙しい時期だよね、よくこんなに書き下ろしを書けたよねえ。

椎名こういう本を作りたかったからなあ。

目黒椎名はその後も写真と文章を組み合わせた本をたくさん出しているけど、全部この『海を見にいく』のように最初に写真があって、そこに文章を付けていくパターンなの?

椎名いや、いろいろだよ。たとえば週刊現代のグラビアでやっていた「海を見にいく」は写真と文章の同時進行だね。

目黒その連載のタイトルも「海を見にいく」なの?

椎名単行本のタイトルは別だけどな。いちばん最初が『にっぽん海風魚旅 怪し火さすらい編』で、全部で5冊出ている。

目黒アサヒグラフでやってるやつがあるよね、あれは?

椎名この『海を見にいく』と同じで、写真に文章をつける路線だな。

目黒パターンはその二つ?

椎名いや、2012年の最初に新潮社から出た『国境越え』は先に文章があって、それに写真を付けるパターンだな。

目黒写真と文章を組み合わせるパターンは三つあると。

椎名そうだな。

目黒おれはよくわからないんだけど、それがいちばん難しくない? だって文章に合う写真を撮るとか探さなければならないって面倒だよね。写真を見て文章を書くほうがたやすいでしょ?

椎名まあおれも年を取って、むずかしいことも出来るようになったということかな(笑)。

目黒まあそういうことにしておきましょう(笑)。

椎名あと、この『海を見にいく』が好きなのはA5判横開きなんだ。その後の晶文社の本もA5判横開きだけど、このかたちの本はこの『海を見にいく』が最初だよ。

目黒そうか。『シベリア夢幻』は変形だったか。

椎名講談社の「にっぽん海風魚旅」シリーズは四六判だしね。

目黒新潮文庫版の152ページにね、生後四週間のときの犬ガクの写真があるけど、これ、可愛いなあ。おれ、子犬のころ知らないから初めて見た。食べちゃいたいほど可愛いね。

椎名サンダルに頭を乗せて寝ているやつな。

目黒そうそう。横になってすやすやと眠っている。まあ、動物も人間も子供のころがいちばん可愛いんだけどね。

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