出版社:文藝春秋

発行年月日:2011年10月15日

椎名誠 自著を語る

小説だけで100冊近くを書いていると思う。小説は書くジャンルがかなりはっきり分化していて、一方はSFを基本にした超常的な娯楽小説。ひとりの人間がその頭の中でどのくらい途方もない嘘の世界を構築できるだろうか、というのがこのジャンルを書くときのぼくの最大の興味と喜びである。(『ひとつ目女』『チベットのラッパ犬』など) もう一方は私小説で、まあ昔風にいえばもっとも古典的な純文学のラインに入る。SFジャンルが途方もない虚構のストーリーに邁進するのとは逆に、こちらはできるだけ本当に起きたことを軸にそのとき自分が思っていたことをきちんと書き連ねていくようにしてきた。それは基本的には自分の行動や意識が中心になるので、子供のころから現在に至るまでのわが人生のその都度の断片を小説という形でまとめてきたことになる。だから年代順に積み重ねていくと10冊以上がそういうジャンルになる。 この本はぼくが16、7歳から20歳近くまでのかなりあぶなっかしい主に喧嘩沙汰をテーマに書いてきた『黄金時代』の続編にあたる13年ぶりの作品である。両方とも純文学誌『文學界』に不定期で長期にわたる連載をまとめたものだが、今度の本は少し趣向を凝らして、構成にかなり思い切った変則技を用いた。そのため私小説としての年齢幅は20歳から50代にいたるぐらいの幅の広い時代をまたぐことになった。 てらいもなく言ってしまえば、わが人生のいちばん激しい時代を正直に克明に描いたもので、書いた当人としては苦労したこともあって、久しぶりにちょっとしたカタルシスを得た。つまりは力を込めて書いたというわけで、読む人にそんなことをいくらか感じてもらえれば大変嬉しい。

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そらをみてますないてます

出版社:文藝春秋

発行年月日:2014/5/10

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