出版社:文藝春秋

文庫

発行年月日:2003年10月10日

椎名誠 自著を語る

自分でいうのもなんだが、この本はかなり好きな一冊である。それというのも背景があって、小説雑誌の中でぼくは文藝春秋の『別冊文藝春秋』がいちばん好きだった。そこからの原稿依頼がずっと続いていた。隔月なのでそれほど負担にはならない。テーマも制約がなかった。原稿枚数もそれほど厳しく決められているわけではなかったから、書き手としてはこれほど有利なことはない。面白いテーマに出会うと長く書けるし、ちょっと息詰まると短く終わらせてしまう。かなり自由にいろんなテーマに向かって書けた一冊だ。表題となった「すっぽんの首」は、しょっちゅう行っていたある時の川べりのキャンプですっぽんをつかまえた。そいつをみんなで食おうというときに、すっぽんにかまれると大変だから、竹かなにかをくわえさせ首をちょん切るためにぐいぐい引っ張っていくと、首が蛇のように長く伸びるということを知った。あまり伸びると気持ち悪いのでそのちょうど真ん中あたりをナタでパキリと切り落とした。なにかほっとしたような、ひどく悪いことをしたような複雑な気持ちになり、みんなで切られたすっぽんの生首をおがんだ。その強烈なイメージがタイトルになった。(2011年 椎名誠 語りおろし)

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