出版社:文藝春秋

文庫

発行年月日:2000年12月10日

椎名誠 自著を語る

純文学誌『文學界』に二年間にわたって書いてきたごつごつした青年時代の荒くれた日々。私小説であるから題材は実体験が基盤になっている。その意味では書いて行くにつれてどんどん記憶の頑固な硬直がほどけていった。暗闇の中で激しく動き回っているような自分とその当時のタタカイのあれこれが浮かび上がってきて、書いていく原動力には困らなかった。掲載した雑誌とはいささか風合いとか色合いとか気風の違いがありすぎ、引け目に感じることも多々あった。けれど連載当時、非常に理解ある編集者に助けられ、なんとかそれらの重いテーマを貫いて書きまとめた。日常が殺伐としたけんかに明け暮れた日々だったので、いつも体中のあちこちの骨がきしむような痛みがあり、顔や体の傷も絶えなかった。打ちのめされたあとなど、いやはや自分の青春時代は泥の中に這いずり回っているようなものだなあとつくづく打ちひしがれ、その反動からか、タイトルは反対に『黄金時代』と大きく出た。多分にやけっぱちの気分に横溢していったその反動なのは間違いない。450枚。その頃の作家仕事としては痛々しいけれど、充実していたような気がする。

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