出版社:角川書店

新装版 

発行年月日:1996年02月28日

椎名誠 自著を語る

最初に小説を書いたのは中央公論社の『海』誌上、担当編集者は当時まだ社員だった村松友視さんでした。今思うと豪華でしたね。当時、村松さんには、あまりにも内向的な純文学ばかりではなく、破天荒なものもあるべきだという考えがあって、唐十郎さんや嵐山光三郎さんたちに小説を書かせていました。ぼくもそんな中の一人です。初めての作品「ラジャダムナン・キック」は80枚の小品ですが、書いていて楽しかった。小説って面白いなあと思いました。『海』に何作か書いたあと、角川書店の見城さん(現・幻冬舎)から『野生時代』にも書きませんかという話が来て、そこで書いたものをまとめたのがこの短編集です。これはタイトルを間違えられることが非常に多い本なんです。「ジョン万次郎の逃亡」とか、とにかくちゃんと言われたためしがない。自分ではひそかにムッとしています(笑)。作家なら誰でも同じだと思うけれど、自分の作品や本の名前を間違えられるというのは、非常に気分の悪いものなんですね。この人ホントに読んでくれたのかな、なんて不安にもなるし。せっかく読んでくれた人とは気分よく話をしたいので、ぼくは相手が言い間違えそうになると、「ああ、『ジョン万作の逃亡』ですねと、先に言ってしまうことにしています。(椎名誠 新潮文庫 1996年『自走式漂流記1944〜1996』より)

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