出版社:教育社

発行年月日:1979年02月25日

椎名誠 自著を語る

この本を執筆していた当時はまだクレジットカードがそれほど普及していない頃で、業界でキャッシュレスビジネスの可能性が話題になっている程度でした。SF好きのぼくとしてはプラスチック・マネーや自動販売機に興味があったし、仕事でクレジットのことを研究していたので正月の3日間で書いてしまいました。原稿料は36万円で買い切り(1枚4000円を100枚書いて40万円、それから源泉徴収された額)。これは当時のぼくの給料の3倍近い大金でしたが、この本は結構売れて増刷になったので、後から印税にしておけばよかったと後悔しました(笑)。初めての本の原稿料はしみじみ嬉しかったので、銀座の東洋信託銀行に1カ月だけ貯金しました。瞬間的に堅実な人でしたね。この本は長い間ぼくの手元になかったのですが、94年頃に早稲田の古書店街で1冊30円という本の山に埋もれていたのを偶然見つけて手に入れました。見つけた時は本当に驚きました。でもたかが30円の本を買うために、いい年した大人がものすごく興奮して店に入ってきたんだから、店の親父の方がもっと驚いていたかもしれないね(笑)。 (椎名誠 新潮文庫 1996年『自走式漂流記1944〜1996』より)

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