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出版社:角川書店

文庫

発行年月日:2018年09月25日

椎名誠 自著を語る

こういう本は何ジャンルといえばいいのだろうか。SFが好きで自分でも思いがけないくらいたくさんのSFを書いている。さらにSFの範疇に入るような自然科学もの、主に生物の世界、とりわけ動物行動学についての読書欲は、若いころからたぶん今後も果てしなく続くだろうと思う。  SFの専門誌『SFマガジン』から必ずしもSFがらみでなくてもいいから、日ごろ思っていることを書いたらどうか、という打診があったとき、それは大変うれしい依頼だった。学生の頃から読んでいた『SFマガジン』と、分野は違うが『アサヒカメラ』はぼくにとっては憧れの二誌で、まだプロになる前からこの二誌に自分が参加出来たらどんなにうれしいだろうと思っていたものだ。そういう強い思いは通じるもので、今現在その二誌に連載ページを持っている。どちらも二十年以上続いており、(アサヒカメラは26年)表現者としてはこれほどシアワセなことはないのだ。  『SFマガジン』には文字通りその時思っていること、日ごろからじわじわ疑問含みで考えていたこと、目を覚ましていながら見ている夢のようなことなどを本当に自由に書かせてもらっている。それらが一定量たまると単行本になる。この本はそのシリーズの最新刊だ。やたら長いけれどこのタイトルをぼくは大変気に入っている。翻訳書で書いているある学者の話をそのまま引用したのだが、まったくおどろくべき思いもよらない指摘であり、びっくりしていくつかの関連書を読んだが、どうもそれは本当らしい。  かつてアマゾンの奥地で体長3センチぐらいのアリを見たことがある。噛まれると想像を絶する痛さらしいが、ネイティブであるワイカ族は噛まれないコツでもあるのか、袋の中に入っているその巨大アリンコを上手につかんで熱湯の上で指でつまんだまま振り回し、半殺しにしていた。ああこれはアリシャブじゃないか、と南半球の遥かな奥地でひとり喜んでいた記憶がある。  地球生命というのは人類からアリンコまで本当に途方もない行動とその可能性に満ちており、SFマガジンの連載もまだ続いていることから、この本を書いたあとにさらに興味を募らせたアリンコ関係に集中した本をいつか書ければなあと思っている。

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