『アイスプラネット』

目黒まず、『アイスプラネット』です。2014年2月に講談社から刊行と。この「あとがき」に、こうあります。

二〇一二年から光村図書の中学二年生の教科書に「アイスプラネット」という短編小説を載せています。本書は、そのとき書いた短編の骨子をベースにしてあたらしく書いた、その長編版です。

こう書いてあるだけで初出が載ってないんだけど、最初の短編バージョンはどこに書いたの?

椎名だから教科書用に書いたんだよ。

目黒書き下ろし?

椎名そうだよ。

目黒教科書に書き下ろしの小説が載っているとは知らなかった。じゃあ、長編バージョンはどこに書いたものなの?

椎名これも書き下ろし。あとがきにそう書いただろ。

目黒そういう意味なのか。

椎名小学校の教科書にも書き下ろしたぜ。「プラタナスの木」だったかな。それと、高校の教科書には転載されたな。

目黒そっちの、すでに発表ずみの小説の一部が転載されるケースばかりだと思ってたよ。教科書に載るのは。まさか書き下ろしがあるとはなあ。高校の教科書に転載された小説はなに?

椎名『岳物語』とかな。あっちこっちに載ってるから、よくわからない。

目黒なるほど。小学生、中学生、高校生の教科書に、そんなに椎名の小説が載っているとは知らなかった。いまね、ここにある教科書をざっと見ているんだけど、常連の作家っているよね。森鴎外とか新美南吉とか、だいたい物故作家が多いけど、そのなかに椎名がこんなに多く混じっているのはなぜだろう?

椎名それは作家として正しいというか、作品が素晴らしいというか、何かそういう理由だろうな(笑)。

目黒こういう場合の、特に書き下ろしたときのギャラってどうなの?

椎名おれ、知らないんだよ。

目黒具体的なギャラはいいんだけど、雑誌に書いたりする場合よりもいいのかな悪いのかな。

椎名よくはないだろ。

目黒そうだよね。ま、いいか。ええと、この『アイスプラネット』は中学二年生の原島悠太くんが語り手で、三八歳のおじさん「ぐうちゃん」にいろいろな話を聞くという構成になっている。この「ぐうちゃん」はカメラマンとの設定なので世界中を旅しているんだね。だからいろいろなことを、世界各国の風習や自然の驚異、動物の生態などを知っていて、それを悠太くんに教えてくれる。椎名の本をまったく読んでない中学生がこれを読んだら面白いだろうね。おれは椎名の本をだいたい読んできたんで、ここに書かれていることは椎名の本で全部知っているから(笑)、どうということもないけど、それを言っては始まらないのでここでは言いません(笑)。

椎名中学二年になってすぐにこの小説を読むんだよ。始めにな。

目黒始めってどういうこと?

椎名ほら、おれの作品はどれも教科書の最初に載ってるだろ? 小説は最初と決まっているんじゃないか。

目黒いやいや、いま教科書を見ると、ほら、後ろのほうにも小説が載ってるよ。三浦哲郎さんとか。なんで、椎名の小説だけ冒頭なんだろ。

椎名それは子供たちに愛されているからだろ(笑)。

目黒教科書に載るってことは、先生がこの短編を教材にするわけだよね。この「それ」は何を指していますかとか。

椎名そうだろうな。

目黒じゃあ現場の先生から質問がこない? ここの「あれ」は何を指しているんですかとか。

椎名先生からは来ないけれど、生徒からは毎年どっと手紙がくるよ。

目黒へーっ。

椎名感想を書いてくれるんだよ。

目黒それ、もしかしたら、みなさんでお手紙書きましょうって先生が言ってるんじゃないかなあ。

椎名そうかもしれないけど、小学生の手紙なんて可愛いよ。そうだ、サイン会をやると別の本のサイン会なのに、この『アイスプラネット』を手に並んでいる子供がいるよ。嬉しいよな。

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