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出版社:集英社

文庫

発行年月日:2016年05月25日

椎名誠 自著を語る

週刊誌連載を二本やっているときは、たいてい一年のうちにそれぞれが一冊ずつ単行本にまとまる。何年も前から続けている連載であるから、同時に以前出た単行本の文庫化もあるから、一年の間に週刊誌関係のエッセイ本が単行本と文庫本あわせて4冊出るということになる。  書いているときは締め切りとの競争になるから、書き出すまで全く頭になかったようなことでも、我ながらプロの作家というものはすさまじいもので、頭の中で1,2,3と数えて4と数えた後にはなにごとか書き出しているという例がかなりあるのだ。いったん頭に浮かんできたテーマは、書いていくにつれてありがたいことにたいてい何カ所かに枝葉が伸びていき、二時間もあれば6,7枚の原稿は書きあがってしまう。ぼくはワープロを使っているのだが、それまで本当にバシバシと一気にその話の終わりまで書きとおしてしまう。  そうしてまあ、椅子から立ち上がり、軽い柔軟体操などをして、その気があればお茶などを飲み、屋上に行ってだいぶ傾いた太陽などを眺め、他に原稿があるときはいくらか余裕を持ってそれに挑むことになる。  それから少ししてさっき一気に書き上げたものをもう一度ゆっくり読んで、つまりは推敲していく。主に言葉つなぎや表現を直すことが多いが、構成上明らかに失敗というようなことはあまりないようだ。三〇年も書いているとそういう職業的な習性ができてしまうのだろう。だからもし3,4年まるでそういう仕事から遠ざかっていたとしたら一本を一日で(正確には2,3時間で)まとめてしまうというようなことは多分できないような気がする。  このシリーズは「サンデー毎日」に書いたものがまとまっているが、こうして目次を眺めてみると5,6年前に自分が考えていたことのあれこれを思い出したり、あるいはまったくそのヒントの片鱗も思い出せなかったりとさまざまである。ありがたいことに以前書いた同じ話をすっかり忘れてまた書いているという、年相応のボケ現象はまだ起きていないように思う(という気がするだけだが)。

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