『足のカカトをかじるイヌ』

目黒それでは『足のカカトをかじるイヌ』からいきましょう。本の雑誌2007年6月号から2010年10月号まで連載して、2011年11月に本の雑誌社から単行本になった本です。「今月のお話」をまとめた本かな。

椎名そうだね。

目黒なんといっても冒頭で紹介する「雫石応援マガジンtantan」がいいね。創刊準備号と創刊号の2冊を椎名が紹介してるんだけど、これは素晴らしいね。椎名も書いてるけど、センスがいい。写真もレイアウトも完全にプロ中のプロの仕事だよ。

椎名タウン誌にもこういう素晴らしい雑誌があるんだな。

目黒このあとの号も椎名は読んでるの?

椎名うん。

目黒じゃあ、いまでも続いてるの?

椎名いや、たしか4号くらいで休刊した。

目黒それは残念。ええと、細かなことが幾つもあるんですが、あとはどこからいこうか。そうだ、ここからいこう。こういう文章があるんですよ。

前作『オルタード・カーボン』を読んだときに、朋友北上次郎と「これは傑作だなあ」と話したものだが、彼が新作の帯で「何か文句のあるやつは一列に並んでくれ」などと書いている。彼の解説からとった文章だが、言っている意味はわかるものの、どうもぼくはこの文章は気にいらなかった。

『ブロークン・エンジェル』の帯を見ると、たしかにそういう文章があって、そこに「解説より」とあるから、おれが解説で書いたと思われても仕方がないんだけど、これはタケシ・コヴァッチの台詞を解説の中で引用しただけなんだよ。カッコいいなあと思って、おれがそれを解説のタイトルにしただけ。そしたら編集者がそれを帯コピーに使っちゃった。だから文句があるならオレじゃなくて、タケシ・コヴァッチに言ってもらいたい(笑)。

椎名わかった(笑)。

目黒読者の手紙を紹介する回があったよね。二十年前に八丈島で助けた少女が大人になってからテレビで椎名を見て、お礼の手紙がくるという回。いまは結婚してお子さんもいて海の近くに住んでいるんだけど、小さなときに溺れたトラウマでいまでも海が怖いから子供を海にいれられないと。

椎名沖縄の人に泳げない人が多いって知ってた?

目黒えっ?

椎名海には危険がいっぱいだってことを大人は知っているから、子供を海に近づけなかったんだ。昔は沖縄の学校にプールもなかったから、そうすると泳げない子になる。

目黒それは意外だね。真っ黒になって海に飛び込んでいるイメージがあった。

椎名沖縄だけじゃなくて、島の子供も同じだよ。

目黒なるほどね。あとね、小笠原の父島にあるホテル・ホライズンの朝食が素晴らしいというくだりがある。「日本全国朝飯評論家」としてはベスト3に確実に入る、と断言しているんだ。で、どんな朝食かと思ったら特に目新しい素材の料理が並ぶわけではないんだね。

大きな椀によく炊けたご飯。具だくさんの味噌汁。地マグロのたっぷりの刺身に焼き魚がついたりする。それに野菜の煮物。サラダにお新香。清潔な白い制服の女性が笑顔でそれらを持ってくる。

なるほどなあと思った。こういうのが美味しいんだね。

椎名これはシェフというか厨房の能力だよな。それに、父島自体がいいんだよ。離島のベスト1だな。びっくりするような洒落たレストランもあったりするんだぜ。

目黒すごいね、島がベスト1で、ホテルの朝食もベスト1か。ちょっと待って。新潟のイタリア軒の朝食がベスト1って書いてなかった?

椎名両方ともベスト3に入るな。

目黒ということは、もう一つ枠が残ってるぜ(笑)。ベスト3を発表したほうがいいんじゃない?

椎名それはまだ秘密にしておこう(笑)。

目黒あるんだ? ふーん。ええと、あとはこれがいいね。沖縄カルタ。

椎名いいだろそれ。

目黒創作沖縄張り子人形を作っている豊永盛人さんの店にいって、沖縄カルタを買うんだよね。そのうちの1枚を「ウ・リーグ」の十周年記念冊子の表紙に使っている。これが素晴らしいよね。2人の選手が1本のバットを握っているやつ。

椎名どうやって振るんだよな(笑)。

目黒このイラストは豊永盛人さんが描いたの?

椎名東京で個展をやったりしている人だよ。

目黒このカルタ、欲しいなあ。

旅する文学館 ホームへ